冬のストックホルム近代美術館

 ストックホルム近代美術館、Moderna Museetのロゴはラウシェンバーグの手書きの文字がそのまロゴとして使われている。それは作家に対する敬意の現れだと思う。
 昨年11月頃から毎日ように続くメールの打合せにまったく懲りずに問題点、疑問点を次々に返してきてくれたストックホルム近代美術館の技術課のオフィースは運河に停泊する舟などが見渡せる景色が広がる窓を持つ。(写真)
ストックホルム近代美術館の技術課 
 
この美術館はヨーロッパを代表すると言っても良いくらい洗練された運営をしていると思う。その一つがこの技術部門だ。ヨーロッパの大きな美術館では当たり前の話しなのかも知れないが、常任で映像、音響、照明、内装など12名のテクニシャンがいる。
 確かな技術をもって冷静に美しく仕事をする彼らは百戦錬磨を感じさす余裕さえ感じる。インスタレーションに関しては、作家も最善を尽くしているのだが、またそれに応えるべく作家の予想以上の準備と設置を美術館として応えた時、今ままでにない展示が完成することを彼らはよく知っている。
 ヨーロッパでもトップクラスだと思える常設展ではカルダーの電気仕掛けの大きなオブジェが動いていた。楽器のような音が出る大掛かりな装置だが、しっかりとメンテナンスされて普通に動いていた事には驚かされた。
 もう現代の美術館には技術部門は必用不可欠な時代になっているが、日本でそういう人材を確保している美術館ほとんどなく、勿論そういう部署が日本の美術館にあることは無い。技術関係の人材のいる美術館でも1名の担当者がいるという貧弱な状況であることは一般には知られていない。いかに有能なキュレーターがいても、それを実際の展示に生かすには、実際に現場をデザインして実現する人材が如何に重要であるかは、数値などでは計り知れない部分だ。美術館外の業者に頼らざる得ない現状では入札制度などのために毎回違った業者の仕事になって、なかなか専門的な人材が育たない。美術と技術、そして美術館を理解してそれを発揮できる人材の育成が急務だと思う。
 また今回束芋のインスタレーション作品がこの美術館のコレクションに加わったが、そのために作家に対してのビデオインタビューがあった。それは作品の内容に対することだけでなく、使っている機材、壁紙や床面の素材や色など細かな事を遠い将来にも再現できるように作家の希望する品質のニュアンスを作家の肉声として残すのだ。私もテクニカルの担当としてインタビューに答えた。
 未来に残す作品として、作家の意向をできるかぎり反映して展示するという基本的な事に対する努力を惜しまない姿に感銘を受けた。
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2018.6追記
「じぁあ君も朝食のミーティングから参加して」と初日に言われて、彼らのスタイルに溶け込まされた所から始まった。この時の展示のために機材の一部はアメリカで準備したものが送られて来たが、それが十分なものではなかったので現地で作ったり部品を探したりすることに追われたが、彼らの対応は100%を越えるもので、作家や作品を美術館に受け入れるとはこういう事だと思う体験だった。日本の美術館のシステムでは作品や展示に対する様々な技術が外注委託によって、その場凌ぎになって蓄積されない事が現在も続いている。短期的には単にもったいない事で見逃されているかも知れないが、長い目で見るともっと大きな差として現れてくる日が来るのではないか。美術館は本来成長するものだ。

この写真は美術館スタッフが撮ってくれた私

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この展覧会の様子等はimomushi : tabaimo -2010-に収録されています。
 

束芋:tabaimo imomushi -2010-芋蟲 from Ufer! Art Documentary on Vimeo.
束芋:tabaimo imomushi -2010-
日本語/English Subtitles

imo-laをリリースした2007年の秋、束芋はロンドンの北の街、ヨークでシャネルのモバイルアートに出品するat the bottomのプロジェクションテストを行なっていた。前年から構想していた作品の形がようやく見え出した。 今回のストーリーはここから始まる。2007年の年末に横浜美術館でGoth展に参加、2008年はニューヨークのジェームス・コーハンでの個展、ハラ・ミュージアム・アークの真夜中の海の新しい展示、そしてモバイルアートが香港をスタートとして東京、ニューヨークを巡回。秋にはデンマークのルイジアナ美術館の「マンガ」というグループ展に参加、ギャラリー小柳の個展を経て、翌2009年はストックホルム近代美術館で個展。そして12月には横浜美術館で始った「断面の世代」へと続いて行く。また2008年10月からシンガポールの版画工房STPIに3回の滞在制作を経て完成した作品を2010年にら発表、2010年は、フィアデルフィア美術館のグループ展、ニューヨークの601 Artspaceでの個展、ロンドンのパラソルユニットの個展を経て国立国際美術館の「断面の世代」。今回のドキュメンタリーではこのロンドン、パラソルユニットあたりまでを束芋の回想によるロードムービーとしてまとめた。

出演・束芋  監督・岸本 康
本編映像 47分

Tabaimo (b.1975) converts her hand-drawn images into animation on a computer and incorporates them into installations using multi-projection and other means of expression. In 2009, 10 years after her debut, her major solo exhibition : “DANMEN” was shown at Yokohama Museum of Art and at The National Museum of Art, Osaka (2010). The film documents the three years prior to the exhibition and includes interviews in which she reflects on each project.
Featuring Chanel’s “MOBILE ART” , “Manga!” at Louisiana Museum of Contemporary Art, her solo exhibition at Moderna Museet and her residency at the Singapore Tyler Print Institute in Singapore, the film contains 11 works of the artist as well as their production process and shows how her large installation comes into being.★ご注意ください!!★
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